インターネット接続のための有線通信回線というと、電話線やCATV、光ファイバー網などが一般的です。オフィスや家庭に引き込まれている「線」は、これらの通信回線だけではありません。電力を供給する商用電源の「電力線」が必ず引き込まれています。PLCは、Power Line Communication(電力線搬送通信)の略称で、オフィスや一般家庭に引き込まれている商用電源ラインに、電力を供給するだけでなくデータの信号を乗せて電力線を通信回線として共用使用とする技術で、電力会社や通信機器メーカなどが中心となって短波帯を使用するPLCの開発を進めています。
 このPLCは、短波帯(1.7MHz〜30MHz)の周波数の搬送信号波を電力線に乗せ、電源と同時にデータ信号を送受信し、インターネットへの高速接続を可能にしようとするものです。ここで問題になるのが、短波帯の信号を使用するこの技術は、HF帯の繊細な電波を使って交信を楽しんでいる私たちアマチュア無線家にとって、大きな障害を与える危険性を持っている点です。なぜならば電力線は、わが国では通常電柱間を電線で結ぶ架空(かくう)配線となっています。架空配線はもともと短波帯の信号の伝送用線路として設計されていないため、架空配線からの短波帯の搬送信号波が外部に放射(漏えい)されることになるからです。このため、繊細なHF帯の信号を扱うアマチュア無線にとっては、重大な混信を受ける可能性が極めて高いものであり、この動向については十分注意する必要があることがおわかりいただけたことと思います。

 平成14年4月、総務省において「電力線搬送通信設備に関する研究会」が発足し、JARLもこの研究会の実環境実験ワーキンググループに参加し、PLCの漏えい問題について実証試験等に参加してきました。
 また、このワーキンググループには短波帯に深く関わりのあるNHK、電波天文周波数小委員会などの各機関も参加しています。当時のJARLの活動については、JARL NEWSやJARL Web等でお知らせしてきました。
 平成14年8月に出された、同研究会の結論の骨子は、次のとおりです。



 「現在開発されているモデム及び現在の電力線の状況では、電力線搬送通信設備が航空管制や短波放送等の無線通信に対する有害な混信源となり得ることから、使用周波数帯を拡大することは困難である。
 なお、今後PLCのモデムや電力線等において漏えい電界強度を大幅に低減する技術の開発が考えられることから、研究開発などを継続することが必要である。そのため、実証試験を行えるよう制度整備(研究開発目的の設備の許可制度)を必要とする。」


 PLCに関する新たな動きは、同研究会で得られた結論の一つである、「研究開発のための実証試験をおこなう制度整備」に基づくものです。
 つぎに、ここまでのPLCに関する動向などを整理してみました。

【平成13年3月】
 政府のIT戦略本部は「e-JAPAN重点計画」で、PLC設備に使用する周波数帯拡大の可能性の検討が表明された。

【平成14年3月】
 電波産業会(ARIB)から総務省にPLCの周波数拡大に関する規制緩和案が提言された。

【平成14年4月】
 総務省に「電力線搬送通信設備に関する研究会」が発足。

【平成14年8月】
 同研究会の「現時点においては有害な混信源となりうる」との結論を受け、総務省では規制緩和の見送りを決定。併せて今後の技術的な開発研究(実験)ができるよう法制度の整備の必要性があることを提言した。

【平成15年3月】
 PLCの高速化技術、既存システムとの共存技術の検証をおこない、日本国内でのPLCの早期実用化を目的とする「高速電力線通信推進協議会(PLC-J)」が発足。参加会員は、関西電力、きんでん、住友電気工業、日立製作所、富士通、本多エレクトロン、三菱電機、松下電器産業、松下電工、ラインコムの10社。

【平成15年7月】
 IT戦略本部は、「e-JAPAN戦略II」の中で家庭内(宅内系)のPLCに関して、研究開発の推進と実用上問題がないことが確保されたものについて活用推進を図ることを表明。

【平成15年8月】
 国内実証実験を許可するための電波法施行規則等の一部改正案を総務省が発表。意見(パブリックコメント)を募集した。

【平成15年11月】
 同改正案については、電波監理審議会において審議された結果、同審議会から「本実験制度の運用に当たっては、既存の無線通信及び放送に影響を与えないよう十分配慮する必要がある」旨の意見を付した上で原案どおりの答申があった。

【平成16年1月】
 総務省では、高速 PLC 設備に関する実験制度導入のための「実験用 PLC 設備の設置許可にかかる方針」を平成16年1月21日に公表した。また、1月26日には、電波法施行規則等の一部改正省令を公布した。これは即日施行され、同日から実験用PLC設備の申請受付を開始。





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