電波利用状況に関する調査研究会 (個別ヒアリング)


 総務省は,近年電波の利用の質的変化とともに,量的にも大きく拡大し,周
波数の逼迫状況が深刻化している中で,電波の利用状況に関して調査・検討を
行うことを目的に,平成13年9月21日「電波利用状況に関する調査研究会」を
発足させました。
 この研究会は,本年12月を目途に検討結果を取りまとめる予定ですが,それ
に先立ち関係団体からの意見を求めたものです。


1.日時  平成13年10月15日(月) 16:30〜17:15
2.場所  総務省 特別会議室(5階)
3.出席者
	中川慶応大学教授
	鬼頭電波部長
	松井電波政策課長
	武井移動通信課長
	炭田電波政策課推進官
	富永電波利用料企画室長
	上原国際周波数政策室長
4.意見陳述者 社団法人 日本アマチュア無線連盟会長 原 昌三

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意見陳述

社団法人 日本アマチュア無線連盟会長 原 昌三


 本日は,皆様にアマチュア無線の現状をお聞きいただけるとのことで,まこ
とにありがたく思っています。「電波の利用状況に関する情報提供に係わる意
見の提出」ということですが,このアンケートにつきましては今お手元にお届
けしている文書でお出ししています。したがいまして,貴重な30分間は,ほか
に意見を述べさせていただきたいと思いますので,よろしくお願いいたします。


 わが国のアマチュア無線発展の要因

1.さて,世界のアマチュア無線の現況ですが,アマチュア局は世界にだいた
い250万局あります。日本は,そのうち突出して数が多く,数年前には最高137
万局ありました。現状は,95万局から100万局の間ではないかと思います。
  これだけアマチュア無線が普及した国は他にはないのですが,これにはいろ
いろな理由があると思います。

 戦後,進駐軍の払い下げ品が神田で手に入りました。優秀なものが何でも安
くあって,こうしたものが定価の10分の1以下だったと思います。これを学生
や,技術に携わる人が買っていって使いました。これが技術向上に非常に役に
立ったと思います。

2.それから,もう一つはソフト面でも,ARRLというアメリカのアマチュ
ア無線連盟がありますが,"Electronics"や"QST"や"Handbook"などいろいろな
ものを出していましたが,それが戦後にアマチュア無線の発展の役に立つなら
ということで,JARLはすべて無料で訳して使って良いという連絡をいただ
いていました。JARLとしては,それをどんどん訳させていただいて日本語
で出版しました。当時JARLの出版部だったCQ出版社からどんどん出版し
て,とても良く売れました。そうして,ソフト面でも知識を吸収することがで
きていました。

 それと,戦後は電気の知識を普及させるために,小学生にも鉱石ラジオを学
校の授業で作らせていました。これが非常に役に立っていました。こうした土
壌があったからこそ,急速に発展したと思います。

3.そして日本のアマチュア無線にとって一番大きなことだと思うのですが,
昭和25年に電波法を作るときに,RRでは電信を知らなければHF帯でアマチ
ュア無線はできないことになっていましたが,これを当時の日本の郵政では,
1級はこれに従うけれども2級は電信を知らなくてもできるようにしていただ
いたことです。そして,2級に100Wを許可していただいていました。100Wと
いうのは,JARLと郵政省との打ち合わせの中で,当時はネオン管1つで送
信機を組まなければならなかったので,100Wないとネオン管が動かない,ア
ンテナの調整もできないなどの理由でお願いしていましたし,それを認めてい
ただいたのです。

 当時の郵政省の方々は,明治の気概があったというか,電波で太平洋戦争に
負けた,どうにかしてアメリカを見返したいということで,局長クラスの方5
人くらいに打ち合わせに加わっていただきました。2日間にわたって話し合い
ました。雪が降っていたのを覚えています。そうしてRRに背いても,2級局
を作っていただいたわけで,これが大きかったと思います。イギリスは6万局
くらい,ドイツも5万局くらいで,戦後50年間数はそう変わっていないのです
が,日本だけはどんどん増えていきました。

 日本のアマチュア無線は,こうして日本のエレクトロニクス,電子産業に大
いに貢献したと思っています。私も,電波技術審議会などに出させていただい
ておりますが,いらっしゃる方々の中に,実は私もアマチュア無線をやってい
たとか,学生の頃に自作の無線機をいじってハンダ付けでやけどをした経験の
ある方が多くいらっしゃいます。

4.日本のアマチュア無線の従事資格者は,310万人ほどいると思います。女
性は,その6%くらいの約20万人です。それも非常に良いことで,女性の方が
電波法,アマチュア無線の技術を勉強していることは,底辺の拡大に寄与して
いると思います。そして,それがお子さんに伝わりますので,小学2年,3年
で4級の免許を取ることが多くありました。家庭内で電気のことを覚えるうえ
で良かったことではないかと思います。そうした,電気に親しむベースを作っ
た功績大とお考えいただけばと思います。

5.そうして,昭和32年に国際地球観測年IGYがありましたが,その年の10
月4日にソ連が人工衛星スプートニクを打ち上げました。それが20MHzと40MHz
で電波を出していて,アマチュア無線家が受信しました。それを基に,衛星の
南中の時刻などを予測したのですが,案外正確にダブレットのアンテナでも測
ることができました。たくさんの天文関係の方が望遠鏡で目視でもやっておら
れましたが,夜でも昼でも曇っていてもできましたから,東京天文台長からも
さすが電波だとお褒めをいただき,当時の新聞などにもたくさん記事が出まし
た。これでアマチュア無線のスタートがきれたのではないかと思います。

 そして,当時就任された浜田電波監理局長に挨拶かたがた話をしに行ったと
ころ,当時数千局しかなかったのですが,その数を増やして5万局にしなさい,
そうすれば機械も本も真空管も欲しいものは揃うようになると言われました。
それに心強くして,JARLは数は力なりの方針をとり始めました。


 アマチュア無線用周波数の拡大

1.アマチュア無線はそもそも,マルコーニの時代以来,電波を出して軍艦や
海岸局と交信したり,いろいろなことをしていました。そこで,1912年に
1500kHz以上の周波数で電波を出しなさいということになって,7MHzから8MHz
で出るようになりました。そこで皆好き勝手にやっていましたが,1920,30年
代には国際条約がまとまるようになって,どんどん狭められてきました。現在
の日本では,7MHzは7000kHzから7100kHzというのが現状です。

 昭和27年7月にアマチュアが許可されたときの,1.8MHzと3.5MHzは不当に
狭いものでした。本来は第3地域でも1.8MHzから2MHzまで,また3.5MHzも
400kHz幅を認められています。ところが,日本は1.8MHzでは数十kHz,3.5MHz
も3500kHzから3575kHzというように,ほんの少しだけです。これでは困ります。
世界的に1.8MHzや3.5MHzバンドにも,電信バンドと電話バンドがあるのです
が,日本は電信バンドの部分しか許可されていません。そこで,電信バンドで
電信も電話も大勢やっていて,世界中から日本のような超大国が無法な行為を
していて,どうなっているんだと言われています。

 7MHzも昭和27年に許可されたときは,A3は2チャンネル,A1は3チャ
ンネルの計5チャンネルしかありませんでした。当時は,そこに何百局も群が
ってやっていました。そこでどうやってコンテストなどをやっていたのか,今
思うと不思議なくらいです。そうしたことがありますので,1.8MHzや3.5MHzは
もう少し周波数をお許しいただきたいと思っています。そうしないと,世界と
の整合性がとれません。

2.もう一つ,少し違う話題ですが,144MHzから148MHzという,戦後許された
アマチュア無線のバンドがありましたが,ところが昭和35年に郵政から146MHz
から148MHzを返してほしいという話がありました。このバンドは貴重なものに
なって,警察や諸々の業務などにどうしても使いたいということになりました。
そこで,2MHz幅を返すにあたって,5倍の幅の430MHzから440MHzのバンドを
使わせてくれるという話でした。私はVHFをやっていましたが,400MHzはエ
ーコン管でも出ないのです。これがアマチュアに使えるかどうかわからなかっ
たので,当時の蓑妻陸上課長に言ったら,144MHzも430MHzも同じです,今もら
っておけば後でどれだけ感謝されるかわからないと言われたので,JARLの
理事会に諮って受け入れました。ところが,すぐに430MHzが使えるわけではな
く,ここは対地高度計などが使っているので,スポットで許可してから数年か
かって10MHz幅になりました。そんな経緯があります。

 今,アマチュア無線はマイクロ波をたくさん持っています。短波帯のかわり
にいただいたものです。ただ,1000MHzという周波数は,144MHzもやっと発振
できて,430MHzはできないと言っていた時代より前のことですから,どうやっ
て使うのかはわからず,月の世界にある土地をもらったようなものでした。そ
れが今になって,ようやく役に立つようになりました。

 ですから,私は昔とは逆に,マイクロ波帯を少々差し上げるかわりに,短波
帯を増やしていただきたいと思っています。例えば7MHzを300kHzにしていた
だけるととても良いと思っています。


 電信の5語/分(5WPM)は世界の流れ

 また,現在,アメリカやフランス,ドイツなどいろいろな国と相互運用協定
を結んでいますが,昨年,アメリカのFCCで,電信の技能要件を一律5WPM,
25文字にしてしまいました。そして,世界中があっという間にアメリカになら
いました。日本でも改正をお願いしていますが,遅々として進んでいません。
相互運用をやっていますから,日本の3級はアメリカでも電信の要件で,アメ
リカの最上級のエクストラをもらえることになるわけです。技術面では日本は
高いものですから,3級でもエクストラに値します。ですので,3級の方が,
アメリカの試験を受けてエクストラを取って帰ってくると,1級相当ですから
皆3級の方が1級になってしまいます。そんな錬金術のようなことが行われて
います。これは世界の秩序のためにもなりませんので,ご考慮いただいて速や
かに整合性を持たせていただきたいと思います。

 日本でもアメリカのアマチュア無線の試験を代行できるところがあって,そ
こに行けば電信が25文字ですからエクストラになれます。そうすると1級にな
ってしまいます。ところが日本は45字,60字といったことで,相変わらず厳し
くなっています。アメリカがなぜこういうことをしたかというと,電信はアマ
チュア無線には大事なもので,発展に大いに貢献した,しかし今後はアマチュ
ア無線の技術向上にそれほど貢献しないだろうという判断でした。しかし,世
界中はそれにならいましたが,今そうでないのは日本と数カ国だけです。


 わが国の無線機は世界で一流

1.ところで,アマチュア無線の功績の一つですが,非常通信もすぐにできる
ようになっています。オペレーターと機械が一緒に動ける局は,他にはないも
のです。阪神・淡路大震災や先のアメリカでのテロの時のように,すぐ非常通
信が始められます。

 また,送受信機も,すべて日本製になってしまいました。昔は全てアメリカ
のナショナルやハリクラフター,ハマーランド,コリンズなどでしたが,それ
が全て日本製になりました。JARL,JARDの技術的な基準も世界に通用
しています。今,国内に170億,外国に180億くらいのアマチュア無線機の輸出
をしています。JARLの認定機種,基準は世界に冠たるもので,これもアマ
チュア無線業界の功績の一つではないかと思っています。

 そこでもう一つお願いですが,難しいこととは思いますが,日本だけは検査
がまだあります。従事者免許と局免許の制度が違うことはわかっているのです
が,そろそろ包括免許を考えていただければと思います。郵政は包括免許にし
たいようだが,JARLとJARDが反対してできなかったという噂が,イン
ターネットでも伝わっていて,私たちも困っています。私は昭和28年の最初の
頃の請願ですでに包括免許をお願いしていますし,昭和34年にJARLに認定
ができたときにも,包括免許ができたらいつでもやめます,また,JARDが
できたときも,包括免許が許可になったら認定はお返ししますと言っていま
す。日本でもお願いを聞いていただければと思っています。

2.それとデジタル化ですが,総務省のご指導で3年間研究したのですが,こ
れを普及させていきたいと思っています。しかし,これはアメリカとプロトコ
ルが同じものでないといけません。日米欧で世界統一をしたいと思っています
ので,よろしくお願いいたします。


 呼出符号の公開

1.あと,日本は昔,アマチュア局の免許情報を官報に掲載していて,それを
コールブックにしていたので,免許を受けた局の区別はすぐできました。だい
ぶ以前,アマチュア局が増えすぎて,官報告示をやめようということでやめた
経緯があります。そして現在では,プライバシーの考えが強くなっていて,交
信した局が免許を受けているかどうか確かめようがなくなっています。また,
1級局か4級局かもわかりません。4級局が1級局のように14MHzにハイパワ
ーで出ていたこともあります。JARL NEWSでも10W以上の局のリスト
を出したりもしましたが不十分です。こうしたデータを出していただかないと,
不法,違法局の確かめようがありません。以前のJARLの総会でも,コール
サイン,氏名,住所などを公示できるのがJARLの会員で,それができない
のはだめだということを決議したこともあります。ですので,プライバシーの
問題もあると思いますが,今のままでは不法のもとですので,是非お願いした
いと思います。

 アメリカでは,全て明示されています。こんな笑い話があるのですが,日本
から行った人がCQを3回言ったら,FCCが2回しか言ってはいけない,電
波の乱用だと言われたという実話もありますし,そのくらいのことをしていた
だけると良いと思っています。局の告示をしっかりやっていただきたいと思い
ます。


 電灯線搬送は大問題

1.もう一つ申し上げたいのですが,最近,電灯線にキャリアを乗せて,イン
ターネットをコントロールしようという話があります。ところが,日本は電灯
線は地下ではなく地上を通っていますので,日本中に2MHzから30MHzまでの短
波の送信アンテナだらけになるようなものです。
 今までの無線界の秩序が破られるように思えます。これは十分なご審査をも
ってやっていただきたいと思います。電灯線については,電力の大会社は9社
ありますが,ものになると思っているのが4社で,後の5社は使い物にならな
いとのお考えとの話も聞いています。しかし,アマチュアバンドが変更になっ
て,全部キャリアが使えるようになると,インターネットのニュースサイトで
出ていましたが,こういうことを出すとは,どういうことかと思います。素人
の方がおっしゃっているとしか思えないのですが,そういった点も総務省から
ご指導いただきたいと思います。

2.JARLとしては,電灯線搬送については,ARIBでやっている実験結
果を見て,総務省と十分な話し合いをしたいと思っています。そう言うと,ア
マチュアの血気のはやった方からJARLはそんなのんびりしたことを考えて
いるのか,けしからんと言う向きもあり,だいぶ厳しいご意見をいただいてい
ます。しかし,私どもとしては,総務省ご指導のもとできちんとやりたいと思
っています。
 アマチュア無線は妨害を受けても人命には影響はありませんが,医療機器な
どもあってその誤作動などは考えられます。電車に乗っているとよく,ペース
メーカーのために携帯電話を使わないでほしいと言っていますが,同じように
重大なことです。


 むすび

 今まで,いろいろとお話いたしましたが,JARLは法を守り一生懸命やっ
ていくつもりです。総務省とも十分なお話し合いをしていくつもりです。今後
ともご指導を賜わりたいと思います。
 本日はありがとうございました。




*総務省発表の電波の利用状況の公表等に関する調査研究会のページは、こちらをご覧ください。




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