第17回 IARU ARDF世界選手権大会
2014年9月6日〜13日、カザフスタン共和国で開催される
17th ARDF World Championships, 6-13 September 2014, Burabay, Kazakhstan

 第17回となるIARUのARDF世界選手権大会(以下、世界大会)が、25の国と地域から選手277名、参加総数約400名の規模で2014年9月6日から13日までの日程にてカザフスタンのブラバイで開催されました。
 JARL派遣日本選手団はJG2GFX種村一郎ARDF委員会委員長を団長とし、選手17名、チーム役員8名(国際審判員1名を含む)の合計25名。
 高校生を中心としたW19、M19クラスの日本代表選手候補は、開催地が日本人にはあまりなじみがないこともあって、全員が辞退と少し寂しいものとなりましたが、チーム役員を含めて全員が国際大会参加経験者と頼もしい陣容となりました。

■カザフスタン アスタナとブラバイ


▲ブラバイの湖畔

▲日本選手団の宿舎のホテル

 日本選手団は従来から現地空港集合、利用便各自手配ということで到着時刻が異なっていたのですが、今回は選んだ便が同じになって、実質的に成田空港集合となりました。カザフスタン入国には旧ソ連圏等を除いてビザが必要なのですが、いかに25名ものビザを確実に取得するかに悩んでいたところ、7月15日から日本など10か国の国民に対する1年間のビザ免除の試行が始まり、ビザ取得が不要となって安堵しました。
 6日の夕刻、首都アスタナ空港に無事到着。事前情報では税関が厳しいとのことで、ARDF遠征の必需品とも言えるパソコンやデジタルカメラなどの持込に不安があったのですが、税関の申告ブースはなく、出口手前に手荷物検査場があって、抜き取りで手荷物をX線撮影するものとなっていました。
 日本選手団は無事に通過できたのですが、日本選手と同一便で到着したオーストラリアのJohn Bramham氏(VK3WWW)が引っかかっていました。競技用受信機が不審物に思われ、なかなか通過できません。出迎えの大会スタッフが加わって説明しますがARDFについて理解してもらえないようすでしたが、検査官がどこかに電話で問い合わせて無事に通過できました。
 多くの日本人にとってカザフスタンは聞き慣れない国でしょう。ロケット打ち上げのニュースでも、草原の国とのイメージが強いかもしれません。確かにアスタナを出たブラバイへ向かう送迎バスの車窓には草原が広がり、ところどころにある小さな湖の周辺に、家を見かけるというのどかな風景が続くものでした。
 それに対し、アスタナは新都心の開発が進んでいました。2017年には万博が開催されることから、空港と都心を結ぶ新交通システムも計画されています。
 クラシック競技休息日のカルチャーイベントではアスタナ市内観光が企画され新都心を見学しました。
 まずはピラミッドを模した建物、続いてアスタナのシンボルとして建てられた金色の球体展望台が特徴的な高さ105mのタワー「バイテレク」がある地区へ。参加者は隣接するショッピングセンターで買い物と昼食を楽しみました。このピラミッド、バイテレクその他のモニュメントは直線上に配置されており、隣接する一部の建物も線対称の構造、線を横切るイシム川の蛇行する護岸の形状も、ほぼ線対称という凝りようです。
 一方、旧市街は傷んだままの道路も多く、超高級とされるホテルも壊れたままの窓が放置されており、ごみ箱内を物色する高齢者、物乞いする子供の姿も見かけたことから貧富の差が大きいようです。ただ、物乞いする少女の身なりは悪くなく、放課後の小遣い稼ぎのような雰囲気であったのが救いでした。
 開催地のブラバイは、アスタナから北に220kmの位置にあるリゾート地。送迎バスがブラバイに近付くと、カザフスタンにも森林地帯があったのだと再認識させられました。参加者は分宿となりましたが、日本選手団は国際審判を除いて、大会事務局が設けられチームリーダー会議の会場ともなった中心のホテルが宿舎となりました。
 リゾート地としてはシーズンオフのようで閑散としていましたが、受信トレーニング(7日)場となった集落近くの森にある大きな岩の上からは、ホテルのある集落と湖を眺めることができ、美しい眺望を楽しめました。自由時間に湖畔の散策を楽しむ参加者も多くありました。

■競技状況


▲記念局UP17ARDF

▲トレーニング中のひとこま

 競技はバスでホテルから30分ほど移動した森林でおこなわれました。全般的に受信トレーニング場と同様に比較的走行容易な地域でした。
 ブラバイは北海道より高緯度で、かつ標高も数100mあり、9月の期間中の気温は朝が3℃程度と低く、日中も15?16℃でした。雨の日もあり残暑の日本から来た者には寒くて、体調を崩した選手やチーム役員がいました。
 まずはクラシック競技(日本と同様にこれまでおこなわれている144MHz帯部門と3.5MHz帯部門)を8日と10日に開催。

▲開会式。日本の旗手はJE1XXK保坂 登さん

 今大会は世界規則の大きな改正(2014年1月施行)後初のものでした。改正点の大きな一つは、競技地図がスタート待機場所に掲示されることとなったことです。これは同じ場所で過去に開催された競技会の際の競技地図を所持している者があることから、公平性を保つために発表することとなったものですが、Reg.1ではそれほど競技会が多く開催されているということですのでうらやましくもあります。その競技地図はスタートとフィニッシュなどの印刷されていないものが掲示されるのですが、選手によって先ずスタートとフィニッシュが描き加えられ、やがて各TXの予想位置が描かれるのですが、各位置は大きくは外れていません。
 どこの国でも、予想もARDFの楽しみ方と探査能力の一つであるようです。


▲日本チームのミーティング

▲第一クラッシック競技スタート前の日本選手

 続いて11日は改正規則で正規種目となったスプリント競技です。これは3.5MHz帯の各TXを100m以上離した設置で12秒間の送信、競技者は2分間隔でスタート、目標優勝タイムは15分とスピーディな競技です。第1のエリア内に5個のTXが設置され、ここでの探査を終えて第2のエリアに移る際にスペクテイター(spectator=見物人、観客)走行コースを通りますが、全ての競技者がここを通過しますので、絶好の観覧場所となります。クラシック競技では観覧者はフィニッシュ地点にしか立ち入ることができませんが、競技中の選手を間近に観ることができるのがスプリントの魅力の一つです。続く第2のエリア内にも別の周波数で5個のTXが設置されていて、ここを終えてフィニッシュとなります。今回のフィニッシュ地点はクラッシック第一競技と同一場所で、スペクテイター走行コースも近くに設定されており、観覧者は徒歩で容易に移動できました。
 最終日の12日はフォックスオーリング競技で、これも改正規則で今大会から正規種目となったものです。


▲JF0FDT佐藤 久選手

▲サポーター活動中のJG1HAP保坂豊子さん

▲JQ1LCW山上淑子選手

 スタート地点では受信できない小出力の3.5MHz帯TXが設置され、競技地図には受信できる位置が描かれていて、そこまではオリエンテーリングの技術で到達し、受信できるようになったら受信機で探査するというARDFとオリエンテーリングを融合した競技です。日本選手にとって初体験となるものでしたが、オリエンテーリング競技をおこなっている選手が比較的好成績でした。
 ARDFに長い歴史を持つ東欧を中心としたヨーロッパやロシア勢の壁は大変厚く、日本選手もこれまでの世界大会にない好成績でしたが、残念ながら入賞には至らず、表彰式で国歌を聞く機会はありませんでした。
 しかし出場選手全員が途中棄権することなく、規定時間内あるいは大きな時間超過もなくフィニッシュしたことから、日本の競技力は確実に向上していると言えます。

■大会運営


▲JF3KRL菊一好史選手

▲JH7UGO高橋信一選手

▲JL4NFN黒木健太郎選手

 大会の運営は開催国がおこないますが、審判については各国連盟に対して国際審判の派遣が要請されました。日本からはReg.3のARDF委員会委員長でもあるJF1RPZ出田 洋氏が、国際審判として参加しました。
 ベテラン審判の参加も多く、オーレと呼ばれているIARU副会長であるOle Garpestad氏(LA2RR)は今大会でも国際審判を務めました。
 近年の世界大会では競技に外乱要素を極力排する方向にあります。これまでも撮影などでのチーム役員の競技地域内への立ち入り禁止(スタートのようすを撮影すると、撮影者は全選手がスタートを終えるまで待機場所へ戻れない)、携帯電話の持ち込み禁止(チーム役員を含み、所持が確認されたらチーム全員が失格にされる)などの措置がとられてきました。


▲第2クラッシック競技のTX

▲JH1BVS三村雅彦選手

▲7M3RMD清水 茂選手

 今回は新たに、スタート地区に随行できるチーム役員は各チーム2名までに制限、Bluetooth通信機能付きのデジタルカメラの持ち込み禁止の措置がとられました。
 今や通信機能が付いていない電子機器を探すのは困難と言っても過言でない状況ですので、Bluetooth対応デジタルカメラの持ち込み禁止に不満の声もあった中で、日本の規則改正では競技に悪影響がなければ、新しい技術の導入を認めるとの考えから、自己のみのペアリングのBluetoothイヤホンの使用を認めたことの報告が注目されました。
 いつの世界大会でも大会事務局は大忙しで多少の混乱があるものです。今回は改正規則で追加されたフィニッシュ地点の情報のブリテン3号への記載と、競技情報などを記載するブリテン4号の発行がされませんでした。改正規則の内容を確認する余裕がなかったのかもしれません。初日、宿舎となるホテルに到着したら、まず選手名簿の確認を求められました。選手団名簿は事前に送付していたのですが、示されたものは競技クラス等が混乱しているものでした。パソコンの画面を見ながら誤りの部分を示させてもらえればすぐに修正できそうなものでしたが、大会事務室には団長1名の入室しか認められず効率が悪いものでした。ホテルのチェックインも、名簿の修正が終わるまでできませんでした。その間にホテル食堂で遅い夕食をとることができましたが、名簿の修正作業に立ち会うことになった団長だけがさらに遅い夕食となりました。
 競技規則では競技前日の19:00までにチームリーダー会議を開催して、スタートリストを示すこととなっていますが、いつの世界大会も規定どおりのスケジュールであることは少なく、スタートリスト配布が深夜となった大会もあります。今回もチームリーダー会議が遅れました。翌日の競技のために、選手には少しでも早く就寝してもらいたいところですが、チームリーダー会議が予想よりも長引き、会議で示された注意事項の伝達をおこなうチームミーティング開催をやむなく遅らせることとなりました。

 選手には成績証明書が配られるのですが、作成が遅れてホテル出立までに受け取ることができたのは一部の者だけでした。大会運営にはこなさなければならないことが多くあります。選手が目にしない業務の一つに大会報告書提出があります。ARDFワーキンググループ会議では、大会終了後に報告書が速やかに提出されていないことについて苦言が述べられました。運営の苦労を想像すると、少々の不手際は許容し感謝するばかりです。

■今後のARDF


▲JR1EYZ大野政男選手

▲JA7EWX西内秀一選手

▲JJ1GRG植木国勝選手

 世界大会では毎夜開催のチームリーダー会議だけでなく、Reg.1のARDFワーキンググループ会議やReg.3各国の代表者会議が開催されます。特にARDFワーキンググループ会議は国際規則改正などが話し合われることから、世界のARDFの動きの情報を得るために会議参加は重要となっています。
 2015年開催の第10回Reg.3ARDF競技大会は、開催の意向を示していた中国とモンゴルが、両国共に開催不可能なことが確定しました。この状況の打開として日本に開催の用意があることを伝え、日本開催で調整することとなりました。
 また、世界大会について次回2016年(第18回)はブルガリア開催がすでに決まっていますが、その次の2018年(第19回)は、Reg.3各国が開催に関心を抱いていることから、2015年秋までにReg.3内で開催国を検討し決定することとなりました。
 今大会から正規種目となったスプリント競技とフォックスオーリング競技は、日本選手にとっては今大会が初の公式戦となりました。今回の参加者が日本での新種目普及活動の中心となることが期待されます。また、普及競技会の開催と共に、送信機や競技の特徴に適した受信機の開発が急がれます。
 近年の中・高校生を含む若年層の選手は、ARDFへの熱意に溢れており、全日本ARDF競技大会を頂点とする競技の選手数は増加傾向にあります。学校指導者と支援者の働きもあって選手の実力も備わってきているものと考えられます。しかし、前述のとおり今回はW19クラスとM19クラスの参加がありませんでした。
 世界大会への参加という視点から見れば、学業との兼ね合いや費用面を考えると、彼らにとっては大変困難なことは容易に理解できます。継続的なARDF発展のためにも可能な限りの支援が望まれます。
 日本代表選手はこれまでどおりに前年開催の全日本ARDF競技大会の成績優秀者から選考しましたが、短期間に選手団の編成をおこなうために候補者への意向確認を、これまでのJARL事務局だけでなくARDF委員と分担しておこないました。また、事務局の負担軽減として選手参加(派遣)要請状発行は勤務先などへの提出が必要な場合のみとしました。今後もこの手法がとられることでしょう。

【参加国など】 オーストラリア、ベルギー、ベラルーシ、ブルガリア、中国、チェコ、エストニア、フィンランド、ドイツ、英国、ハンガリー、日本、韓国、リトアニア、モルドバ、モンゴル、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ロシア、スロバキア、スウェーデン、ウクライナ、台湾、米国
選手数 277名、参加総数 約400名
【日程】
9月6日(土) ホテル到着後選手登録、チームリーダー会議、Reg.1ARDFワーキンググループ会議
9月7日(日) クラシック競技トレーニング、開会セレモニー、チームリーダー会議、Reg.3ARDF委員会会議
9月8日(月) 第1クラシック競技、Reg.1ARDFワーキンググループ会議
9月9日(火) カルチャーイベント(アスタナ市内観光)、チームリーダー会議
9月10日(水) 第2クラシック競技、チームリーダー会議、表彰式
9月11日(木) スプリント競技、チームリーダー会議、表彰式
9月12日(金) フォックスオーリング競技、表彰式、閉会セレモニー
9月13日(土) ホテル出立

(レポート:JP3EVM 植木 等さん)

 全競技結果は第17回IARU ARDF世界選手権大会公式サイトをご参照ください。


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