IARU R1 YOTAサマー・キャンプ2024 レポート

 Youngsters on the Air (YOTA) プログラムは、若者をアマチュア無線に引き寄せ、また若いアマチュア無線家をサポートすることを目的とした、世界アマチュア無線連合(IARU)第1地域(ヨーロッパ・アフリカ)の取り組みです。
 YOTAの活動のひとつであるYOTAサマー・キャンプが、今年も2024年8月16日~23日にプラハ(チェコ共和国)で開催されました。
 同キャンプは、各国のアマチュア無線連盟から派遣された少人数の若者グループが参加し、さまざまな分野の最新のアマチュア無線を体験し、アクティビティの策定に参加し、国際的な友情を育む素晴らしい機会となっています。

 JARLとしましても、YOTAプロジェクトの趣旨に賛同し、JARLからYOTAサマー・キャンプへ公募で選出された2名の大学生(JJ1AHS 萩原 健さん、JK1EDC 荒木 華子さん)を派遣しました(なお、一般社団法人 Youngesters on the Air Japanからは、JO4KVB局が参加されました。)。
 大変有意義であった同キャンプについて、参加されたお二人のレポートをお届けします。

※「ハムフェア2024」のイベントコーナーで、同キャンプ参加者の帰国速報講演が行われました。
 この模様は、次のハムフェア実行委員会公式Youtubeチャンネルでご覧いただけます。
 「速報!! YOTA SUMMER CAMP2024]



●1日目:
 日本時間で8月15日の23時前に成田空港発の飛行機に乗り、現地時間で8月16日の9時頃にチェコのヴァーツラフ・ハヴェル・プラハ国際空港に到着しました。サマーキャンプのスタッフの方が空港まで迎えに来てくださり、バスと地下鉄を乗り継いで参加者の宿泊場所であるマサリク大学の学生寮に向かいました。
 学生寮ではYOTAのロゴマークが入ったキャンプTシャツや、水筒、リストバンドなどのグッズが配られ、セレモニーや写真撮影の際は参加者全員でおそろいのTシャツを着て参加することになります。その後、既に到着していた他の参加者と市内を散策する時間が設けられ、チェコ工科大学で学んだニコラ・テスラに関するクイズなどが出題されました。
 夕方からはオープニングセレモニーが開催され、主催者の方やスポンサーの方の挨拶があったほか、簡単なスケジュールの説明や、キャンプ期間中一緒に行動する、数か国からなる15人程度のグループが発表されました。

[コメント]
 同室のイタリアの女の子と初対面しました。長時間のフライトでその日はくたくただったのですが、オープニングセレモニーで参加者が一堂に会している光景はワクワクするものでした。(JK1EDC)
 今回のキャンプが初めての海外でしたので、生活面や語学面など心配だったこともありましたが、キャンプ主催者の方々やほかの参加者のみんながとてもフレンドリーに接してくださったこともあり、一気に緊張をほぐすことができました。(JJ1AHS)

●2日目:
 2日目の初めには、オープニングセレモニーで発表されたグループごとに、アイスブレーキングを行いました。参加者同士で、目をつぶったままランダムに手をつないで作った人間知恵の輪を解いたり、グループメンバーの名前と国籍を覚えて、順に暗唱したりするレクリエーションでグループ内の交友を深めました。
 その後、チェコ工科大学の教室に移動し、表面実装やPCB、はんだ付けに関するレクチャーと、ARDFの競技としての発達や世界大会の紹介のほか、実際のARDF受信機の使い方に関するレクチャーを受けました。昼食の後、いくつかのワークショップを行いました。最初は、ハンディトランシーバとレゴブロックを使ったワークショップでした。2人でペアとなり、片方が配られたレゴのパークを組み立て、他方はトランシーバを通じてどのように組み立てたのかを聞いてそれを再現するという内容です。一見簡単なように思えますが、どのパーツを、どこにつけたのかを口頭のみで説明しなくてはいけなかったため、ペア同士のコミュニケーション力が試されたワークショップでした。次のモールス符号についてのワークショップでは、参加者がQやBといったアルファベット一文字のコールサインを与えられ、ホイッスルを使いそのコールサインをモールス符号で呼び出し、呼び出された相手はまた別の参加者を呼び出すという流れを繰り返していくゲームを行いました。間違えた人はゲームを抜け、残った人が勝利というルールもあり、モールス符号がわかる人はもちろん、わからない人も楽しむことができました。
 最後は、紙でロケットをつくり空気圧で飛ばして、離れたところからその最高到達点までの仰角を測り、角度から三角比を使いロケットの到達高度を調べるというワークショップを行いました。複雑な数学の定理を、子供にわかりやすく伝えるためのコツを吸収することができました。そのあと体験したARDFは、FOX-Oというルールで行われ、5つのTXを50分の制限時間のうちで回らなくてはいけませんでした。私たちは45分前後ですべてのTXを回ることができました。その後、YOTAの記念局運用も行う予定でしたが、リモート運用の設備にトラブルが生じたようで、私たち二人は運用を行うことができませんでした。しかし、運用を行うことができるチャンスはキャンプ期間中何度もあり、HFや静止衛星などを使い、ヨーロッパからの運用を楽しむことができました。
 この日の夜はIntercultural Eveningというイベントが開かれました。各国が自慢の食べものなどを持ち寄ってふるまうパーティーのようなイベントで、日本代表は抹茶味のお菓子や、たくあんなどをふるまいました。各国のおいしいものを食べたり、参加者同士でQSLカードを交換したりと、大いに盛り上がりました。

[コメント]
 初めてARDFを行いました。小学生のころ、通信教育の努力賞でトランシーバーキットを交換しようとしていた時の無線に対する憧れを思い出しました。Intercultural Eveningでは、各国の食べ物でおいしいと思うものや、おいしさが今一つわからなかったものがあり、慣れ親しんだ味というものが世界でかなり異なることが面白かったです。日本から持ってきたものも、おいしいと言ってもらえるともちろん嬉しいのですが、怪訝そうな顔をされてうーーんという反応も新鮮で、面白かったです。(JK1EDC)
 1日目から様々な分野のスペシャリストからの講演や多様なワークショップを受け、新たな知見を得たり、すでに知っていたことでも改めて理解を深めることができたりと、多くの刺激を受けることができました。また、Intercultural Eveningでは、各国の伝統に触れることができたことはもちろん、日本の文化に初めて触れた人の反応を通して日本の文化を違った視点からとらえなおすことができ、貴重な体験となりました。(JJ1AHS)

●3日目:
 この日は多くのレクチャーとプレゼンテーションが行われた日でした。比較的新しい技術であるSDR(Software Defined Radio)の歴史や特性を学び、伝統的なスーパーヘテロダイン方式と比較をするレクチャー、アンテナの接地に関するレクチャー、お昼を挟みチェコの歴史と文化に関するレクチャーとItalia号という北極へ向かう飛行船が遭難した際に行われた、無線通信による国際的な救助活動についてのレクチャーを受けました。
 夕食の前には、各国の参加者が自国の若いアマチュア無線家の活動についてのプレゼンテーションをする機会が設けられました。若者が集まってコンテストに参加した報告や、各国のYOTAが行っている、若者にアマチュア無線を広めるための取り組みを知ることができました。このプレゼンテーションは当初2日間のみ行われる予定だったのですが、各国がたくさん話し過ぎたことによって、急遽最終日前日まで続けられました。
 夕食の後、Off-Airコンテストが行われました。大きな食堂にそれぞれ3.5MHz帯、7MHz帯、14MHz帯をイメージした3つの机と、その周りに並べられたCQを出せる周波数をイメージした椅子が並べられ、参加者は椅子に座り口頭でCQを出し、一回QSOしたら別の椅子に移動しなくてはいけません。こうしたルールで30分間のQSO数を競うのがOff-Airコンテストです。ナンバーは59とQSOのシリアルナンバーでした。せわしなく椅子から椅子の間を移動しCQを出す参加者や、積極的に呼び回りを行うなど、各参加者の戦略の違いを見ることができました。また、会場には大音量でQRMをイメージした雑音が流されていたり、ホイッスルを鳴らしたりフライパンをたたいたりして(!)QSOを妨害する人もいたりして、参加者は大声を張り上げてQSOしなければならなかったため、終了後には声がかれていた人もいました。

[コメント]
 この日は、前日のIntercultural Eveningを話題にして他の国の人と盛り上がることができました。個人的にOff-Airコンテストがとても楽しかったです。電波伝搬の良し悪しや無線設備に影響されない分、オペレートやコンテストでの経験やスキルが如実に結果に反映されます。私は、全QSOの内24%も誤ってコピーしていたのでもっとオペレートの技術を高めたいというモチベーションにつながりました。日本でもOff-Airコンテストの様なアマチュア無線のオペレート面に光を当てたイベントがあるといいなと思いました。(JK1EDC)
 午前中、日本では滅多に触れることのできないチェコの歴史や文化についてのレクチャーを通して日本とは全く違った伝統を知ったことで、今まで日本から出たことのなかった自分が感じたことのなかった世界の広さを改めて感じることができました。夜のOff-Airコンテストでは、コンテストに参加したことのない人に向けてコンテストの楽しさを伝える工夫を随所で見ることができ、今までコンテストに参加したことがなかったという人から終了後にとても楽しかったという感想を聞くことができ、コンテストが好きな者として素直にうれしかったことに加え、これを参考にして自分もコンテストの楽しさを伝えていきたいと思いました。(JJ1AHS)

●4日目:
 この日はキット製作のプログラムで、受信機とアンテナのキットを製作しました。チェコのアマチュア無線家が設計した基板にコンデンサや抵抗などをはんだ付けして、3.5MHz帯から7MHz帯が受信できる受信機と、7MHz帯から28MHz帯まで使用できるEnd-Fed Half Wave Antenna(EFHW)という、端部給電のアンテナを制作しました。なるべく、はんだ付けの経験がある人とない人が組むようなペアを作り経験者が未経験者をサポートするような形で進められ、最終的にはほぼ全員がキットを完成させることができました。

[コメント]
 キット制作をあまりしたことがなかったのですが、設計図がある分完全に自作するよりもかなりハードルが低くもっとやってみたいと思いました。ただ無線工学を勉強するだけじゃなくて、そのうえでアンテナを自作したりできたらもっと楽しいだろうな、と無線工学の勉強への意欲がより上がりました。(JK1EDC)
 はんだ付けにはある程度慣れているつもりでしたが、シンガポールの友人からさらにコツを教えてもらい、自分のスキルをより磨くことができました。自分でアンテナと受信機を製作しましたが、それを実際に使う機会は設けられず、その点は少し物足りなく感じました。(JJ1AHS)

●5日目:
 5日目は、プラハ市内の観光を行いました。午前中はチェコ国立技術博物館を回りました。チェコを中心としたヨーロッパ製の自動車、航空機、二輪車など多くの乗り物が展示されているメイン展示室のほか、カメラやメガネなどの光学機器に関する企画展などを見学しました。
 午後は、ヴィシェフラド公園という歴史歴価値のある公園を散策しました。隣接する聖ペテロ・パウロ教会はとても美しく、また敷地内には国民墓地があり、科学者や音楽家など多くの著名人が埋葬されているそうです。公園内の芝生広場では、参加者が思い思いに散歩や昼寝を楽しんでいました。
 夜には、IARUのYouth Working Groupについての説明を受けたのち、ランダムに分けられた少人数のグループごとのグループディスカッションを行いました。子供にアマチュア無線を伝えるためにはどうしたらよいかや、若いアマチュア無線家はどのように支援者を選んだらよいか、YOTAの対象年齢を超えた無線家をどのように活動につなぎとめるかなどについて意見を交換しました。

[コメント]
 国立技術博物館では途中で他の参加者と合流して、明らかに不思議な形状の車体のバイクについて話したり、エンジンの構造やクランクシャフトについて解説してもらったり、展示されていた模型の飛行機が北朝鮮のみが現在でも整備して使用しているものであるという知識を披露されたりと、キャンプ参加者がアマチュア無線以外に普段どのようなことに興味を持っているのかが少し知れてよかったと思います。(JK1EDC)
 国立技術博物館では科学技術の歴史について学び、市内散策ではチェコの歴史的な建築物について学ぶことができ、一日を通して実りの多い一日となりました。夜のグループディスカッションでは、ひとつの議題に対し参加者同士で違った視点からの意見を聞くことができ、自分の考えを改めて深めることができました。(JJ1AHS)

●6日目:
 6日目は、災害時の非常通信についてのレクチャーから始まりました。非常通信を行うために準備するべき点として、機材についてだけでなく普段からのネットワークづくりや訓練の重要さなどを学びました。次は、DXペディションを行った無線家のレクチャーがあり、渡航から設営、運用、撤収と出国までの一連について貴重なお話を聞くことができました。午前中の最後には、バルーンの打ち上げについてのレクチャーを受けました。バルーンに位置情報を発信するビーコンをつけることによって位置情報を受信することができるというものです。バルーンやトランスミッタの設計方法や、今までの実績について話を聞くことができ、夜に行われるBaroon Launchingでの実際の打ち上げに向けて非常に勉強になりました。
 昼食の後は、チームごとに希望するワークショップに参加できました。ワークショップには夜に打ち上げるバルーンを制作するものや、Micro:Bit 2台をそれぞれ受信機と送信機としてラジコンカーを作るもの、最新の3Dプリンターを見学したりするものがありました。私たちはMicro:Bitでラジコンカーを作るものに参加し、実際にラジコンカーのプログラムを組む体験をしました。その後のレクチャーでは、電波を情報伝達のためだけではなく、エネルギー伝達の手段としてや、精密測定の為に使う研究をされている方のプレゼンテーションを受けました。
 一日の最後には、位置情報を発信する風船を空に打ち上げました。風船から発射されるビーコンの電波で風船の位置情報をリアルタイムに確認でき、発射直後から着々と高度を上げてゆき、風向きによって飛ぶ方向が変わるさまを観察することができました。

[コメント]
 電波をエネルギーとして使ったり、血圧を測るために使ったりするというプレゼンテーションが興味深かったです。(JK1EDC)
 個人的には、DXペディションを行われた方のレクチャーの、僻地ならではの苦労話や工夫した点などがとても興味深く、またくすりと笑える部分もあり強く印象に残りました。午後のMicro:Bitのワークショップでは、結局ラジコンカーを完成させることができませんでしたが、ペアでコミュニケーションをとりながら作業をしたことによって大きな達成感を味わうことができました。(JJ1AHS)

●7日目:
 Excursionとして参加者が3つのグループに分かれ、プラハ観光に出かけました。Astronomy(天文学), Literature(文学), Architecture(建築)という、3つの異なるテーマに沿った観光ルートが用意されており、その中からチームごとに希望するものを選ぶことができました。私たちはArchitectureを選び、ほかのグループと共通でプラハ城を観光したほか、テーマに基づき、ルネサンス期に建築された、封筒の模様の壁装飾が特徴的な建物や、家を識別するために取り付けられた標章などを見て回りました。
 夜は、Closing Ceremonyが開催され、参加者一人ひとりに修了証が手渡されたほか、キャンプで特に大きな功績をあげた参加者に対して表彰と副賞の贈呈がありました。Closing Ceremonyが終わった後も会場が参加者に解放されており、さながら立食パーティーのような雰囲気で参加者同士夜遅くまで交流することができました。

[コメント]
 Closing ceremony後のパーティーで、ヨーロッパから参加している方々がとても踊り好きであることに驚きました。このパーティーでも、様々な人とQSLカードを交換したり、旗にサインをしたりしたほか、お互いの国の仕事観について話ができて素敵な思い出になりました。(JK1EDC)
 日程最終日、疲れもたまっていましたが、キャンプ中に仲良くなった友人たちと観光に出かけることができ、とても良い思い出になりました。また、Closing Ceremony後のパーティーではあまり関わりのなかった人も含めたくさんの人と交流でき、QSLカードを交換したり帰国後交信する約束をしたりできました。(JJ1AHS)

●まとめ
 PCBや、SDR、非常通信、小型衛星の打ち上げなど、具体的な技術のレクチャーはもちろん、アマチュア無線の楽しみ方を、DXコンテストやCW、ARDF、キット製作など様々な切り口から知ることができ、よりその奥深さを感じる機会となりました。また、同年代の(あるいはもっと年下の)アマチュア無線家が、精力的にアマチュア無線を楽しむ姿に触れて、これからの活動への意欲につながりました。国籍やアマチュア無線歴が異なる、多様な参加者が集まっており、カルチャーショックを受けただけでなく、アマチュア無線の運用中などに共感できる部分も見つかり、興味深く、あっという間に一週間が過ぎました。素敵な機会を与えて下さった関係者の皆様に、厚く御礼申し上げます。(JK1EDC)
 期間中開催されたレクチャーやワークショップの内容自体もとても興味深く勉強になるものばかりでしたが、それに加えてアマチュア無線の魅力をわかりやすく伝えるための工夫のひとつひとつにとても興味を持ちました。今回のキャンプからは、ワークショップの題材選びから、教材の工夫、本番の進め方や終了後の振り返りまで、数えきれないノウハウを吸収することができましたため、これらのノウハウを日本国内でも生かしていきたいと考えています。(JJ1AHS)

(2024.9.20)
(2024.9.24 更新)

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