「高速電力線搬送通信に関する研究会」意見の募集に関するJARLの考え

 総務省は「高速電力線搬送通信に関する研究会」(以下、研究会)の第10回研究会の決定に基づき、「高速電力線搬送通信と無線利用との共存について(案)」(以下、共存条件案)について、来る11月21日を締切として意見の募集(パブリックコメント)を行なっています。

 近年、非常に帯域の広いシステムが開発され、規制緩和の名のもとに新たなシステムと既存のシステムとの共存問題が大きくクローズアップされてきています。今回の研究会の審議は、宅内に設置した高速電力搬送通信システム(以下、PLCシステム)からの漏えいによる共存の可能性について検討されているものです。

 研究会において、JARLを含め既存の無線通信側は、PLCシステムは、無線通信システムではないので、電力線から輻射される不要な漏えい電波により、既存の無線通信に影響を与えてはならず、EMCの立場からこれ以上自然界の人工雑音を増加すべきでないとの主張を貫いてきました。

 また、JARLは、アマチュア無線の立場から、PLCシステムから漏えいする電波の強度は、少なくともITU-R勧告 P.372-8に示されている静穏な田園地帯の雑音レベル以下とするよう主張してきました。

 報告書案の第8章で示されている電流値(準尖頭値30μA。平均値20μA)については、静穏な田園地帯の雑音レベルを大きく超えているものであり、賛成できるものではないので、JARLは次のような骨子にそって意見を提出するべく準備を進めています。

 10月4日の研究会では、JARLとしては座長の提案内容について決して賛成したわけではなく、この案でパブリックコメントを行うことを承認したのみであり、最終承認決定はあくまでも、パブリックコメントの結果を踏まえた12月以降の研究会で行われるものであります。
 すでに決着したような紛らわしい一部の報道に惑わされないようにしてください。

 また、この頁をご覧になった皆様方におかれましても、各自でご判断の上意見を提出して頂きますようお願いいたします。

 なお、参考までにパブリックコメントについては、次のアドレスにその内容が発表されています。

【総務省のパブリックコメント募集のURL】
http://www.soumu.go.jp/s-news/2005/051021_1.html


●JARLの意見の骨子

  1. 短波帯は電離層伝搬により、直接全世界と交信できる周波数帯であり、また地球環境、宇宙環境に直接対応し影響される極めて重要な周波数帯であり、短波帯の電波環境は極力安静に保たれなければならない。

  2. 座長案によって平衡度(LCL)16dB に強制的に低下したことについては、一定の評価はするが、測定法及び電流値(準尖頭値30μA、平均値20μA)については、さらに検討を要する問題であり、案の値では容認できないものであること。

  3. 現在、ITU-R SG6(放送業務)において、PLCシステムの漏えい電波による放送波への影響について審議が進行中であり、その新勧告案では、受信設備設置場所におけるPLCモデムによる放射雑音は、平均値で静穏な田園地帯の雑音レベルより20dB低い値以下、かつ、尖頭値で静穏な田園地帯の雑音レベル以下と規定している。 このITU-R SG6による新勧告案が、今後、各主管庁の投票を得て採択承認されるが、決定された場合、各主管庁はこの勧告に従わなければならない。
     したがって今現在、研究会において結論を出すことは時期尚早であること。

  4. 報告書案では、PLCモデムの仕様については何ら触れておらず、その実態も公表されていない。実態を速やかに明らかにすべきであること。

  5. 共存条件案5章には、次のような問題点があること。

    • 妨害波の電波伝搬では、電力線近傍の電界分布をほぼ原寸モデルを用いて、この寸法と対比できない30MHz以上の周波数帯で測定している。これでは実際のモデル上の電流分布を具体的に表すことは不可能で、この測定は明らかに間違いである。したがって、この章を共存条件案に載せることは大きな疑義があり、研究会の報告書として信憑性に欠けること。

    • 図8−2の電圧基準の金属面の寸法は、2MHzの短波帯に対していくらにすべきか。コモンモードのインピーダンスは接地面の状況の影響を受けるため、平行2線フィーダーによる給電と異なり、同軸ケーブルで平衡給電のアンテナに接続した場合のように、不平衡−平衡バランが必要となり、基準面の接地が重要と考えられること。

  6. アマチュア無線局がPLCシステムから有害な障害を受けた場合、この対策について誰が、どのように対応するか、国、メーカ、利用者の責任の分界を明確にする必要があること。

  7. アマチュア無線局の電波が有線システムであるPLCシステムに対し混信(障害)を与えても、アマチュア無線側に責任はないこと。

●研究会への要望

 JARLでは、第10回研究会に提出した資料で述べているように、実際のアマチュア無線局が設置されている家屋内において、電力線コンセントに複数のPLCモデムを接続した場合の漏洩電界強度を実測する実験を行い、この結果を見て最終的結論を提出したいと考えています。
 「PLCシステムと既存の無線局との共存」については、あくまでもPLCシステムにより既存の無線通信が制限されることがないよう、既存の無線局の納得が十分得られた状態でなければならないと考えます。
 パブリックコメントに寄せられた意見については、研究会においてさらに検討を行い、完全に共存が可能であるという結論を得るまでは、次の段階に進めるべきではないと考えています。

【参考】第10回研究会の資料は、次のURLから入手できます。

http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/policyreports/chousa/kosoku_denryokusen/index.html


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