アマチュア無線の電波がパソコンに与える電波障害

 パソコンが一般家庭に爆発的な勢いで普及しています。アマチュア無線の世界にも、早くからアマチュア衛星の軌道計算、ログの管理、パケット通信、RTTY、SSTVなどパソコンがさまざまな形で根づいています。
 アマチュア無線による電波障害は、テレビや電話機が一般的でした。ところが、最近になって「近隣のお宅のパソコンに障害が発生するので対策方法をお伺いしたい」という問い合わせが寄せられています。

■パソコンと電波障害…今昔物語

 8ビットパソコンが登場したばかりのころは、内部で使用していたクロック(発振回路)は2MHzとか4MHz程度の周波数でしたが、このクロックが外部ノイズとして、ラジオなどに与える電波障害が一時大きな話題になったことがあります。
 またこのころ、アマチュア無線機器メーカーも、パソコンへのアプローチとして、トランシーバーを接続して外部制御をおこなうためのインターフェースを準備するなど、さまざまな取り組みがありましたが、実際にこれらのインターフェースを介してパソコンとHFトランシーバーを接続すると、「トランシーバーをコントロールはできるけれど、パソコンから発振する強力なノイズで肝心のHF帯のシグナルが受信できない」という不可解な現象に遭遇することも多かったようです。
 その後、FCC(アメリカ連邦通信委員会)はこのパソコンが発するノイズに対しての規準を設けました。米国のパソコンメーカーはノイズについてFCCが定めた一定の規準をクリアーした製品しか出荷できなくなりました。
 一方、日本のパソコンメーカーもこのパソコンが出すノイズ対策にいち早く取り組み、現在出荷されているモデルには、完璧とまではいえないものの数々のノイズ対策が施されています。
 こうして、HF帯でコンテストを運用しながら、パソコンソフトを活用して気楽にログの管理ができたり、HF帯のRTTYが楽しめるようになったのですが、そのパソコンが今度は逆に、外来の電波から障害を受ける立場になったのです。

■アマチュア無線の電波が飛び込む!

 ここでご紹介する障害の事例は、パソコンにアマチュア無線の電波が混入して、スピーカーから音声が聞こえるというものです。
 その原因については、現時点では一概には断定できませんが、パソコン本体には外部にノイズをバラまかないための対策が施してありますので、内部に直接飛び込んでいる例以上に、電源ラインやスピーカーやモニターディスプレイといった周辺機器の配線ライン、モデムやDSU/TAを介して接続される、電話の公衆回線などから飛び込んでいるケースが多いものと推測されます。
 なお、今回ご紹介する障害の事例と同様な障害でお困りの方や、対策を実施して障害が解消した事例などがありましたら、JARL業務課までご連絡ください。

【事例1】

★障害の状況
 アマチュア局が21MHzのSSB電波を発射すると、隣のお宅のパソコン(市販のデス クトップパソコン)に電波が混入し、パソコンのスピーカーから音声が聞こえてきました。5〜10Wの空中線電力でも障害が発生しました。
パソコンの使用状況:
 DSUを介してISDN回線を接続して、インターネットに接続しています。

★調査結果
 DSUからISDN回線をはずすと、障害の程度は軽減されます。また、ISDN回線とDSUの電源線をフェライトコアで対策することで、50W程度までは障害が改善されました。

★対策の結果
 ISDN回線から侵入する妨害波をなくすために、NTTに対策を依頼する予定でしたが、スピーカーコードが妨害波を拾っている可能性があるため、パソコンに接続されている外部スピーカーのコードにフェライトコア(FT-82#43)を巻いたところ障害は解決しました。

【事例2】

★障害の状況
 アマチュア局が14MHz帯と21MHz帯のSSB電波を発射すると、隣のお宅のパソコ ン(市販のデスクトップパソコン)に電波が混入し、パソコンのスピーカーから音声が 聞こえてきました。空中線電力は500W。100Wであれば障害が起きません。

★パソコンの使用状況
 パソコン単体(電話回線などは接続されていません)

★調査および対策
 事例1と同様に、スピーカーコードから障害波を拾っている可能性があるので、パソコンに外部スピーカーが接続されているかの調査をおこなうことになっています。

【事例3】

★障害の状況
 アマチュア局が144MHzのSSB電波を発射すると、隣のお宅のパソコン(自作のWindowsマシン)に電波が混入し、パソコンのスピーカーから音声が聞こえてきました。

★パソコンの使用状況
 通常の電話回線を接続して、インターネットに接続しています。

★調査および対策
 事例1と同様に、スピーカーコードから障害波を拾っている可能性があるので、パソコンに外部スピーカーが接続されているかの調査をおこなうことになっています。

 JARL事務局に寄せられている、パソコンへの電波障害の一部です。これらの事例では、原因の究明や対策が終わっていないものもありますが、障害が起きた原因が特定できたのは事例1のように、パソコンに接続されている外部スピーカーのスピーカーコードにアマチュア無線の電波が誘起されたものです。

 このほか、パソコンが電話回線と接続されているような場合には、テレホンIと同じように電話回線に電波が誘起されて障害が起きる可能性も考えられます。
 もちろん近隣のお宅に、これまで例がなかった新たな電子機器や家電製品が増えることもありますから、定期的に近隣の方に声をかけて、マメに電波障害の有無を確かめるように心がけましょう。


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