1996年8月17日打ち上げ成功!現在も快調に運用中

JAS-2「ふじ3号」誕生の足跡

▲太陽電池の清掃作業をおこなっているところ。  アマチュア衛星JAS-2が1996年8月17日10:53,宇宙開発事業団(NASDA)の種子島宇宙センターからH-IIロケット4号機で打ち上げられました。
 当日の種子島の天候は晴れ。打ち上げは,途中カウントダウンの停止があったものの,10:53にはロケットはリフトオフし,予定通りの飛行を続けました。
 11:31にJAS-2の分離信号がNASDAによって確認され,11:35には南極昭和基地8J1RLでJAS-2のシグナルをキャッチしました。
 1時間後の12:35にはJARL技術研究所の衛星管制室で,JAS−2シグナルを受信できました。JARLはアマチュア衛星JAS-2が軌道に乗ったことを確認し,「ふじ3号」と命名しました。
 8月19日には,郵政省関東電気通信監理局の検査官によって,「ふじ3号」との通信が確認され,無線局落成検査が終わって,アマチュア衛星局8J1JCSの免許が与えられました。

 ここでは,8月13日から打ち上げ当日,JAS-2誕生そして,翌年5月の姿勢制御完了までの道のりをNASDA発表の資料などを元に再現してみましょう。

■種子島宇宙センターの天気(8月13日09:30発表)■
【概況】
大型で強い台風12号は,奄美地方の西海上をゆっくり北上しており,明日の朝には屋久島の西海上に達する見込みで,最も東寄りのコースを進んだ場合は,種子島地方も今夜半過ぎに風速25m/s以上の暴風域に入る恐れがあります。今朝の射場付近は台風の一番外側の発達した雨雲が九州本土へ抜けたため晴れ間が広がっていますが,夕方から次の台風を取り巻く活発な雨雲がかかり始め,一段と風雨が強まる見込みです。また,台風の動きが遅いため,長時間にわたって風雨の強い状況が続き,降り始めからの雨量が150〜200mmに達する大雨も予想されます。

■打ち上げカウントダウンの射場8月14日の主要作業■

  1. 1/2段推進系バルブ作動点検
  2. パワー・オン・ストレイ電圧点検
  3. 電池結線

▲熱真空試験(平成8年1月10日,日本電気横浜事業場)のようす


▲動バランス試験(平成8年3月29日,文部省宇宙科学研究所)

■種子島宇宙センターの天気(8月14日09:00発表)■
【概況】
大型で強い台風12号は,熊本県の天草諸島付近を有明海に向かって進んでおり,今夜宵の内には山陰沖の日本海に進む見込みです。台風が種子島から離れるにつれて,射場付近で吹いていた非常に強い南西の風は弱まってきましたが,朝のうち台風を取り巻く活発な雨雲の影響で風雨の強い状態が続く見込みです。
 また,午後は次第に雨が止み,今夜半前までに強い南西の風も弱まる見込みです。明日の種子島地方は太平洋高気圧の周辺部になり,西から上層の気圧の谷が接近して来るため,午後から再び大気の状態が不安定になって,にわか雨が降りやすい不安定な天気になる見込みです。

■8月14日。技術研究所にて■
 折からの台風12号の影響が心配されます。「明日からは泊まり込みだぞ!」とは技術研究所スタッフの弁…現地からの連絡はいつ飛び込むかわかりません。いよいよスタッフは臨戦態勢に突入したのです。


■種子島宇宙センターの天気(8月14日16:00発表)■
★台風注意報継続強風情報継続,雷・大雨情報解除
【概況】
台風第12号は九州北部を横断して瀬戸内海の周防灘へ抜け,間もなく山口県に再上陸する見込みです。
 一方,台風が通過したコースを埋めるように,太平洋高気圧が勢力を広げており,明日から明後日にかけて,種子島地方は太平洋高気圧の周辺部に入りますが,台風が持ち込んだ暖かな湿った空気が残るため,大気の状態が不安定になり,明日の夜を中心に雨の降りやすい天気になるでしょう。
 しかし,太平洋高気圧は勢力をさらに強めますので,明後日の後半から天候は安定してくる見込みです。

■種子島宇宙センターの天気(8月15日09:00発表)■
★雷情報継続
【概況】
西日本を縦断した台風第12号は,15日8時には大型で並の強さの台風まで衰えて,山形県酒田市の南西約110kmの海上を東北東に進んでいます。台風は山形ないし秋田県に再上陸したのち,明日の朝には北海道の東海上に達する見込みです。
 台風の通過したあとの種子島地方には,台風が引き連れてきた暖かい湿った空気が流れ込んでおり,大気の状態は不安定です。16日昼頃までは,にわか雨が降ったり,雷に注意を要する不安定な気象状態が続きますが,17日は太平洋高気圧の勢力が次第に強まり,天気は安定してくる見込みです。

■打ち上げカウントダウンの射場8月15日の主要作業■

  1. 火工品結線
  2. 2段ガスジェット装置推進薬充填
  3. 発射48時間前風観測及び発射性の確認

▲残留磁気の測定(平成8年2月16日,文部省宇宙科学研究所)

▲7月29日午後。衛星分離部との結合がおこなわれた

■8月15日15:00。南極昭和基地(8J1RL)中部隊員と連絡■
 「JAS-2の分離確認の受信実験を開始するので,アマチュア衛星「ふじ2号」(JAS-1b)の最新軌道要素を送ってほしい」とのリクエストが技術研究所に入ります。

■種子島宇宙センターの天気(8月16日09:30発表)■
★雷情報継続
【概況】
日本の南海上にある高気圧が次第に勢力を増してきており,昨日,東シナ海にあった線状の積乱雲も押しあげられる格好で,九州本土方面に移動しています。しかし,今夜はじめまでは大気の状態がやや不安定のため,積雲が拡がり,一時にわか雨が降る見込みです。今夜は不安定な状態も次第に解消して,初めの内はにわか雨の降ることもありますが,積雲に代って上層の薄雲が拡がるようになるでしょう。明日は上層の薄雲が多目となりますが,にわか雨の降る心配はなく,風も全般に弱い見込みです。

■打ち上げカウントダウンの射場8月16日の主要作業■

  1. 誘導制御及びRFシステム点検
  2. アンビリカル離脱系最終準備
  3. 機体クローズ・アウト
  4. 発射24時間前風観測及び発射性の確認

■8月16日11:35。種子島宇宙センターより入電■
 種子島宇宙センターより「打ち上げ準備作業は順調。射座点検塔(PST)の開放を開始。にわか雨や,雷に注意を要する不安定な気象状態が続いているが,H-IIロケット4号機打ち上げの準備は予定通りとどこおりなく進んでいる」

■8月16日17:40。南極昭和基地(8J1RL)中部隊員と連絡■
 「JAS-2分離確認のため,「ふじ2号」(JAS-1b)を使用して受信実験を行ない無事成功した」

■種子島宇宙センターの天気(8月16日19:00発表)■
【概況】
種子島地方は本州南方海上で次第に勢力を強める太平洋高気圧に覆われてきており,南からの暖かい湿った空気の流れ込み先が北上して九州北部へ移ってきましたので,大気の状態も安定してきています。射場付近の上空は薄い巻雲に覆われてきましたが,これは悪天候を予見させるものではありません。今夜から明日日中にかけて薄い巻雲を主体とする薄雲りペースの天気が続きますが,大気の状態は安定し,にわか雨の心配も無く,穏やかな天候が続く見込みです。

▲ロケット第2段燃料タンクの上に運ばれたJAS−2

■8月16日20:20。NASDAより入電■
 NASDAより「南極昭和基地周辺にブリザードが発生。昭和基地でのJAS-2分離確認は難しそうだ」

■8月17日00:30。種子島宇宙センター■
 射座点検塔(PST)の開放が完了。

■種子島宇宙センターの天気(8月17日01:30発表)■
−打ち上げ射場の天候−

 天候:晴れ,気温:26.2℃,風向:204deg,風速:4.8m/s

■8月17日02:40。種子島宇宙センター■
 液体酸素タンク,液体水素タンク内の気体をそれぞれ酸素ガス,水素ガスで置換する作業を開始。

■種子島宇宙センターの天気(8月17日03:30発表)■
−打ち上げ射場の天候−

 天候:晴れ,気温:26.2℃,風向:219deg,風速:4.7m/s

■種子島宇宙センター■
【04:15】
第1段,第2段ロケットの燃料タンクへ液体酸素,液体水素の充填を開始。打ち上げ準備作業は順調に進んでいる。
【08:49】打ち上げ準備作業は順調。これから,1時間のホールドタイムに入る。

■種子島宇宙センターの天気(8月17日09:33分発表)■
−打ち上げ射場の天候−

 天候:晴れ,気温:28.9℃,風向:296deg,風速:3.2m/s

■8月17日。技術研究所■
 東海大学高山氏(JH6MME)より「スタンバイOK!!熊本より打ち上げ成功を祈る。最新の軌道要素がわかりしだい送ってほしい」

■8月17日09:49。種子島宇宙センター■
【09:49】打ち上げ40分前のカウントダウンを開始。
【09:59】すべての作業は順調に進んでいる。打ち上げは予定通り10:29になる模様。

■8月17日10:00。JARL管制局■
 打ち上げに関する報を待つ技術研究所のスタッフ,JAS-2の製作に当たったNECの技術スタッフの真剣な面持ちが印象的です。

■8月17日10:19。種子島宇宙センター■
【10:19】
第2段ロケット安全バルブに異常を認める。ターミナルカウントダウンを停止
【10:25】打ち上げ時刻を午前10時54分として準備作業を再開
【10:35】打ち上げ時刻を午前10時54分から午前10時53分に再設定し準備作業を再開
【10:43】ロケット系,衛星系,射場系,射場安全,飛行安全,追跡管制とも最終作業
【10:49】打ち上げ240秒前。自動カウントダウンシーケンス開始準備が完了
【10:50】自動カウントダウンシーケンス開始
【10:53】リフトオフ,ロケットは正常に飛行中

★H−IIロケット4号機の飛行シーケンス(打ち上げ計画)
事象 経過時間
(分:秒)
距離(km) 高度(km) 慣性速度(km/s) 実際の時刻
リフトオフ          -:00 0 0 0.4 10:53
固体ロケットブースタ燃焼終了 1:33 26 38 1.5  
固体ロケットブースタ分離 1:40 33 44 1.5
衛星フェアリング分離 3:50 187 151 2.0
第1段主エンジン燃焼停止 5:54 430 319 3.7
第1段・第2段分離 5:55 433 321 3.8
第2段エンジン燃焼開始 6:00 449 331 3.6
第2段エンジン燃焼停止 15:00 2719 802 7.5
ADEOS分離 15:47 3027 802 7.5 11:10
JAS-2分離確認 37:53 11867 825 7.2 11:35

 JAS-2の分離確認はNASDA,ロケットテレメトリデータによると,11:30:57,昭和基地での電波受信は11:35です。
 表記の打ち上げ計画時刻は,上空のコンディションなどの変化で,実際の時刻とは若干異なっています。

■8月17日10:59。種子島宇宙センター(小野英男氏)より入電■
 種子島宇宙センターに滞在中の技術研究所小野英男氏より「第1段ロケットエンジン停止,第2段ロケットに点火の場内放送が流れている。打ち上げはすべて順調に進んでいる」

■8月17日11:10。NASDAより入電■
 ADEOS分離を確認。

■8月17日11:35。南極昭和基地8J1RLより入電■
 11:32,NASDAから「11:30:57にJAS-2の分離を信号を確認」の報告がありました。待望の新アマチュア衛星JAS-2が無事誕生したのです。

■JAS-2オービット#1。JARL管制局にて■
【12:34】
日本へ飛んで来るJAS-2を追いかけるために,ロケットの軌道予定値を使って衛星の軌道を予測。記念すべきJAS-2の第1回目のウインドウは12:35に開くようです。オービット#1の飛来を待つ,管制局のスタッフの間は静寂の中,緊張がみなぎっています。
【12:35】ほぼ計算通りJAS-2のCWビーコンが入感してきました。周波数は435.795MHz付近。テレメトリーのシグナルが響きわたります。受信したテレメトリーデータを分析するスタッフの真剣な眼差しが印象的です。信号強度に若干の変化が感じられるものの,シグナルは非常に強力です。
【12:49】強力だったCWビーコンがスーッとノイズの中に沈んで行きました。一方,鹿児島の記念局8J6JCS局からも「JAS-2のシグナル確認」の報が入り,技術研究所に拍手が響きわたりました。 「動作確認そして実通試験…まだまだ私たちがやらなければならない仕事は山積みなんですよ。さあ!これからが大仕事だぞ!」と語るスタッフの緊張の表情の中に,わずかながら微笑みを感じとることができました。
■8月17日付けJARL発表文■
 日本アマチュア無線連盟が開発したアマチュア衛星JAS-2は8月17日10時53分(日本標準時)に,宇宙開発事業団種子島宇宙センターから,H-IIロケット4号機によって打ち上げられました。
 JAS-2は11時35分に南極大陸上空で電波の発射を開始したことが確認されたのち12時35分から東京都豊島区巣鴨にある当連盟の衛星追跡管制局により電波信号が受信されて,衛星軌道に乗ったことが確認されました。
 当連盟ではアマチュア衛星JAS-2を「ふじ2号」の後継機として「ふじ3号」と命名しました。

 なお英語での表現は“Japan AmateurSatellite 2”,“JAS-2”,“Fuji-3”です。
 郵政省,科学技術庁,宇宙開発事業団をはじめ,今回の打ち上げに際し絶大なご支援とご協力を賜りました関係の皆様に厚く御礼申し上げます。

■JARL管制局にて…■
 その後も,技術研究所のスタッフの間では,昼夜通してのワッチ,テレメトリデータの解析,デジタル系プログラムのロード,運用モードの切り替え試験などの数々の作業が続けられました。デジタルモードも無事動作を確認。次の周回のメールボックスには,JAS-2打ち上げの成功を祝う熱心なアマチュア無線家のメッセージが書き込まれるなど,新衛星JAS-2に対する大きな期待が感じられるところです。

■8月19日。実通試験8J1JCS局誕生■
 そして8月19日,関東電気通信監理局の検査官によって,アマチュア衛星JAS-2の落成検査がおこななわれました。
 10:45〜11:05のウインドウで,数々のコマンドチェック,送受信系チェックなどが行なわれ,JAS-2が上空で所定の性能を発揮できることを確認して無事検査に合格。JAS-2にはアマチュア衛星局8J1JCSのコールサインが与えられたのです。

■8月19日付けJARL発表文・JAS-2「ふじ3号」の現状■
 8月19日現在,「ふじ3号」は正常に働いています。18日夜のパスでデジタル中継器を働かせました。BBSの試験も確認し,デジタルテレメトリデータも取得できるようになりました。さらに衛星システムの立ち上げをすすめ,スピンアップと姿勢を決める作業が続きます。

■アマチュア衛星「ふじ3号」初期運用について(平成9年1月17日発表)■

 打ち上げの8月17日から電源系、通信・コマンド系、姿勢系、熱系の確認試験をおこないました。1月17日までに確認した衛星の機能について知らせいたします。

1)電源系

 太陽電池の発生電流は最大約1.5A、バス電圧は13.5Vから17Vで発生電力は23W以上を確保しています。しばらくは日陰率が30%程度あるのでアナログ系とデジタル系の連続的な同時運用は当面避けるようにしています。

2)通信・コマンド系

 アナログおよびデジタル系中継機(1200bps/9600bps/デジトーカ)の中継機能は問題無く動作することを確認しましたが、メールボックスの動作が2日間程度運用すると停止するという現象を認めました。原因はソフトウエアのバグにあると思われ、衛星およびそのシミュレータを使って対策を進めました。その結果、放射線によるメモリーのデータ化けを防止するエラーコレクションに問題がある事が判明しました。対応ソフトを1月16日にアップロードして現在評価運用をおこなっています。

3)姿勢制御系

 太陽センサー、地磁気センサー、マグネトルカの動作に問題のないことを確認しています。ニューテーション制御、スピンアップ制御も問題なくおこなえます。ニューテーション制御をおこなったため分離スプリングにより与えられた衛星の揺れが減少してダウンリンク信号にほとんどフェージングがなくなりました。
 自動太陽捕捉制御の機能確認をおこない、太陽電池の発生電力が増える向きに衛星を制御しました。今後も衛星の姿勢をモニターして必要に応じて姿勢制御をおこないます。

4)熱制御系

 構体温度は4度から18度、バッテリ温度は6度から20度で安定しています。太陽電池パネル温度は-11度から+22度内にあり、設計通りの値を示していますが打ち上げ当時に比べると3〜5度上昇しています。これは1月が太陽に地球が最も近づくためです。

5)今後の運用について

 ソフトウエアの評価運用が問題なく終了すれば、2月より定常運用に移行する予定です。評価運用中もメールボックスの利用は可能ですのでご利用ください。

■姿勢制御完了(平成9年5月29日発表)■

 アマチュア衛星「ふじ3号」の姿勢が,スピン軸が軌道面垂直のモードになりました。この姿勢制御により通信回線が安定しました。この状態でしばらく運用をおこないますが姿勢のドリフトがあれば随時,姿勢制御をおこないます。「ふじ3号」の現況を次に示します。

1)電源系

 太陽電池の発生電力は23W以上確保しています。打ち上げ直後のデータと比べても太陽電池素子の劣化等による発生電力の減少は認められません。日陰率は5月末現在25%程度ですが今後減少して,9月中旬から来年6月末まで全日照の期間に入ります。

2)通信/コマンド系

 メールボックスの動作が停止することがありましたが,ソフトウエアの改修により現在は安定した運用を行っています。9600bpsの回線状態が良くないことを確認していますが,今回の姿勢制御により改善が期待できます。また,アナログ系もフェージングが軽減されて,いままで以上に使いやすくなっています。

3)姿勢制御系

 全て正常に動作しています。今後も衛星の姿勢をモニターして必要な姿勢制御をおこないます。

4)熱制御系

 現在の構体は平均17度程度で良好ですが,温度はパッシブな熱制御ですので今後の日陰率の減少により衛星の温度は徐々に高くなっていきます。

5)今後の運用について

 アナログモード,デジタル系1200bpsモード,デジタル系9600bpsモードを1週間ごとに切り替えて運用します。デジトーカは2ヶ月に1度程度の運用を予定しています。


ロケットおよび打ち上げの詳細については

http://www.nasda.go.jp/

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