埼玉県狭山市にて日本初オンラインによる<br> 国際宇宙ステーションと交信に成功

埼玉県狭山市にて日本初オンラインによる
国際宇宙ステーションと交信に成功


▲システムの不具合もあったが、サポートチームの協力で無事全員が交信できた

・交信日:令和4年3月17日 19:21〜19:32(JST)
・コールサイン:8J1KSC
・主催団体:スタークラブ (後援:狭山市立中央公民館)

◆日本初オンラインでのARISSスクールコンタクトに成功
 依然として新型コロナウイルス感染症の影響が収まらず、さまざまなイベントが中止や延期になる中、令和4年3月17日(水)、日本時間の19時21分からおよそ10分間、狭山市内で一般公募により集まった17名の小学生が国際宇宙ステーション(ISS)との交信に全員成功しました。
 NA1SS側は、NASAの宇宙飛行士・Mark Vande Hei氏(KG5GNP)で、交信から13日後の3月30日に地球に帰還した際に、ISSでの滞在日数が米国人として最長となる355日を記録したことが認定されました。
 今回のARISSスクールコンタクトは、日本では初めてとなるオンラインを活用しての実施となりました。

◆感染症の中でも開催できる方法を模索
 ARISSスクールコンタクトは、地球の最前線で働くNASA宇宙飛行士の多忙なスケジュールの合間を縫っておこなわれるため、交信の具体的なスケジュールは直前に決まります。交信を実現させるには、参加する17名の子どもたちがこのスケジュールを最優先し、かつ新型コロナウイルス感染症が拡大している中での健康維持も要求されます。

 この状況下で全員が濃厚接触者や感染者に該当しないようにするのはなかなか困難です。それでも実行できる方法を考え、海外で事例のあった「オンラインでの開催」にチャレンジすることにしました。
 オンラインであれば、万が一、参加者が濃厚接触者に該当したり、感染したとしても、自宅から参加が可能です。これにより、地上局側の参加者の状況を安定させることができるのと、なにより子どもたちの交信チャンスを広げることができます。

 具体的には、主催団体「スタークラブ」の活動拠点にアンテナを設置し、参加者は自宅でネット接続したパソコンにてスタークラブ事務局とGoogle Meetでビデオ通話して、その音声を直接無線機に送ります。PTTボタンはスタークラブが制御し、子どもたちの順番になったらメインオペレーターがPTTボタンを押して、子どもたちから宇宙飛行士へ質問をしました。

▲スポンサー企業の屋上に設置されたARISS交信用のアンテナ
 オンラインで交信した様子は、当日YouTubeでライブ配信しました。

▽YouTube:
https://www.youtube.com/watch?v=DwSs7lHnt34

◆学びの多いARISSスクールコンタクト
 ARISSスクールコンタクトは非常に学びの多いイベントです。
 今現在ISSに滞在し、私たちの住む日本上空をISSが通過する際に直接交信をおこなうライブ感は、さまざまな科学的な要素を考えさせられます。宇宙や地球の自然現象、無線通信など、今回の交信に必要な要素を子どもたちがしっかりとイメージできているかどうかを確認することは非常に重要です。宇宙開発の最先端ではどのようなチームが活動しているか考えることで、自分たちの将来に必要なことも見えてきます。
 また、宇宙飛行士と話をするには言葉の壁をクリアしなければなりません。日本にいると外国語が必要になるケースは非常に少ないため、子どもたちにとっては「必要だから学ぶ」という学びの原点の経験にもなったはずです。今回はこれらに加え、スムーズに進行するために、自分の順番の時にはマウス操作でマイクをONにし、順番が終わればマイクをOFFにするなど、オンラインでのコンピュータ操作も必要となりました。

 これら学びの機会を十分に活用するため、そしてオンラインの練習のために、17名を4つのチーム(A〜D)に分けて、それぞれのチームに対して1回30分程度のオンライン勉強会を全4回開催し、その後2回の全体リハーサルをおこないました。

第1回:英語を話してみよう!
第2回:宇宙の疑問を英語にしよう!
第3回:宇宙飛行士への質問を英文にしよう!
第4回:質問を英語で話そう!
第5回:3月12日(土)19:30〜21:00/A〜D全体リハーサル!
第6回:3月15日(火)19:30〜21:00/A〜D全体リハーサル!

 英語のオンライン講座については、地元で活躍するALT(外国語指導助手)の先生や、狭山市国際交流協会(SIFA)の活動に参加する方々がボランティアで協力してくださいました。そして交信当日のリアルタイム翻訳や翻訳の取りまとめなどもお手伝いいただき、地域が一丸となって、オンラインによるARISSスクールコンタクトを実現することができました。

◆一生に一度の経験の価値を
 今回、ARISSスクールコンタクトの募集をおこなう際に、狭山市立中央公民館より後援をいただき、狭山市内の小学校にチラシを配布しました。新型コロナウイルス感染症の影響で学年閉鎖などもあって配布できなかった学校もあったようです。また「宇宙との交信」という浮世離れした話はうまく理解してもらえない側面もあるように感じました。「日時は直前で決定します」という内容も、予定が組めないからと参加を断念する人も多かったようです。
 しかしながら、「一生に一度の価値」と考えてくださった保護者の方々からは理解を示す声を多くいただきました。実際、参加者17名はすべてのオンライン講座に欠席することなく参加し、プライオリティを高く設定していると感じました。
 オンライン講座を通じ、ARISSスクールコンタクトで何がおこなわれるかを子どもたちにしっかり伝えることができました。また英語力の上達にも目を見張るものがありました。

 私たち「スタークラブ」にとって、ARISSスクールコンタクトは3度目の経験となりますが、何度開催しても色あせない感動があり、ISSと接続した時の感動と、交信が終わったあとに子どもたちに押し寄せる「達成感」は経験した人にしか分からない独特な感情だと感じます。人生の中でもなかなかできない経験をしたという「価値」は、子どもたちが成長すると共に更に実感していくことでしょう。
 これを機に、多くの子どもたちが自然や科学、無線通信やテクノロジーへの興味や理解を深めて欲しいと願います。

[レポート:スタークラブ代表 吉田]